「レモンジーナ」(4月1日発売)に続いて、「ヨーグリーナ」(4月17日)でも出荷停止の失態を演じてしまった。わざと品薄感を演出した「炎上商法」との批判も流れて、サントリーにとっては最悪の展開になっている。SNSの影響でネットで話題になった新製品は、発売直後に品切れが頻発する傾向がある。
『東洋経済オンライン』(4月21日)のトップ記事「サントリー、2度の予測ミスはなぜ起きたか 「レモンジーナ」「ヨーグリーナ」の出荷停止」(田嶌ななみ:東洋経済編集局記者)などを読むと、両製品の売れ行きは、事前にある程度は予測できたのではないかとの論調で書かれている。
同誌の記事によると、サントリーの説明では、「レモンジーナ」の4月の販売計画は70万ケース(1ケース、24本入り)を予定していた。ところが、3月31日に出荷されたレモンジーナは、わずか二日間で出荷停止。つまり品切れである。比較対象となるのが、2012年にヒットした姉貴分の「オランジーナ」の販売実績である。
こちらは、初月の出荷実績が100万ケースである。ちなみに、オレンジ―ナは、2014年の月平均で80万ケースが売れている。ということは、需要をやや低めに見積もっていた可能性がないわけではない。営業が確認犯的に行動していたとしたら、「炎上商法」と騒がれても弁解の余地がなくなる。しかし、実態はたぶんちがうだろう。そう推論する理由はのちほど説明する。
一方で、「ヨーグリーナ」の初月の販売計画は120万ケースだった。最初に紹介した「東洋経済オンライン」で同じ田嶌記者が書いた記事によると、
「サントリー 南アルプスの天然水&朝摘みオレンジ」の発売初月(2014年4月)の出荷実績は78万ケースで、市場が昨年より拡大していることを考慮して約1.5倍増やした。「朝摘みオレンジ」の2014年の年間販売実績は440万ケースであり、その3割近くに相当するヨーグリーナの発売初月の計画は、極端に小さい数字とは言えない。
コメントにもあるように、二週間後に発売されたヨーグリーナは、当初計画を積み増して発売に備えたはずだった。ところが、レモンジーナに続いて、ヨーグリーナでも出荷停止となってしまった。好意的に解釈すると、サントリー内部で、つぎのようなシナリオで新製品の需要予測がなされていたと推測できる。わたしたちが、大学院のマーケティング論で教えているような「需要予測公式」(伝統的なフォーミュラ)を使っていたはずなのだ。
ビールやソフトドリンクのような飲料(非耐久消費財)の需要(率)は、一般的には、「トライアル率」(潜在顧客層の初期購入率)と「リピート率」(一定期間内の再購入率)の掛け算で決まる。おそらく予想される需要としては、これに従来からの類似製品の事例を加味しながら、出荷計画を立てていたに違いない。ところが、すでにレモンジーナで明らかになったように、ネットで事前に話題になってしまうと、発売初期の瞬間風速が「爆売」になってしまうのである。
ネットで話題になっている新製品の販売予測は、従来の公式では過小評価になってしまうのである。修正のための処方箋は、SNSとくにツイッターのRT(リツイート数)で、需要予測を修正することである。そのためには、わたしたち(「吉田秀雄記念財団プロジェクト」@法政大)が開発した「ブームの熱量」と呼ぶ指標を使用することである。
この新しい公式(瞬間風速の予測フォーミュラ)は、まだ開発中のものである。わたしの仮説を述べると、「新製品がネットで話題になってから3日間の累積RT数が、”爆売”(=トライアル率)の重要な説明変数になる」である。いま、レモンジ―ナとヨーグリーナのデータで、その予測精度を検証中である。
実は、「ブームの熱量」以外にも、付随的な予測因子(概念)を現在、わがチームが調査研究中である。サントリーの営業部隊が、三度目の不幸な事態に陥らないよう、お助けをしたいと思っている。今後は、従来の需要予測の方法では、サントリー以外の消費財メーカーでも、同様な「過小推定」による品切れが頻発することが心配である。