本格的に「ソーシャル視聴」の研究を始めます!

 弟子の岩崎さん(日テレ)、木戸さん(法政大学)、中畑さん(朝日大学)らとともに、2年計画でメディア研究を始めることになった。テーマは、「ソーシャルメディア環境下でのマス広告の効果研究」である。2014年度の「吉田秀雄記念財団助成研究」への応募が採択になったからだ。



 吉田秀雄記念財団に届け出た研究テーマには、”副題”がついている。研究テーマ:「ソーシャルメディア環境下でのマス広告の効果研究:複数メディアの広告伝播モデルによるシミュレーション実験とメディアの受け手の視聴行動分析」。採択になった研究計画をブログにアップする。それは、われわれの研究に関するコミットメント(責任)を表明するためでもある。

1. 本研究の背景と目的

 2013年秋より、「日本マーケティング・サイエンス学会」の研究部会(法政大学)が中心となり、広告研究者、メディアリサーチャー、広告代理店、クリエイターが共同で、「広告の今と未来を考える」というプロジェクトを組織した。参加メンバーは、研究者と実務家の混成チームで20人ほどである。
 法政大学で開催された「ミニシンポジウム(9月」では、それぞれの立場から広告の今を分析し、広告のあり方について討議した。その中で、7人の発表者全員が共通して関心を寄せていたのが、「ソーシャルメディア(SNS)の普及がマス広告の視聴行動に与える影響」であった。SNSのインパクトの大きさを、それぞれが質的な側面と量的な側面の両方から議論した。
 ただし、各自が取り組んでいるリサーチ(視点の異なる多メディア研究)は、必ずしも精査されたものではなく、発表者個人の想いなどを含むものであった。
 本研究では、リサーチ的に分断されているように見える広告メディアの諸研究を統合し、ソーシャルメディア環境下でのマス広告の効果を、定性的な手法(観察法など)と定量的な方法(シミュレーション実験など)によって分析する。プロジェクトチームが取り組むサブテーマとしては、
 ①視聴者のメディア接触と視聴態度の形成(SNS環境下でのメディア体験)、
 ②マルチエージェントベースの広告効果モデル(シミュレーション実験)、
 ③テレビ視聴行動の操作実験(音声効果テストなどど)、
 ④SNSを想定したクリエイティブ研究などである。
 その上で、広告コミュニケーション活動に関与している4つのグループ(研究者からクリエイターまで)の多元的な視点を共同研究へ結実させるつもりである。
 なお、2013年度の「カンヌ国際広告祭」から「広告」(Advertising)という文字が消えてしまった。新しい名称は、「クリエイティビティ・フェスティバル」である。「広告」のあり方がこれほどシリアスに問われている時代もないだろう。受け手である視聴者のメディア接触行動の変化を正確に捉えて、「確実に届いて心に響く」広告のあり方を検証し、提示することが本研究の目的である。
 
 本研究の背景を、最大の広告メディアであるテレビを中心に、もう少し詳しく述べることにする。
 ディバイスが多様化し、テレビ視聴は激減していると言われている。その中で、テレビCMも大きく落ち込むという議論が行われているが、テレビは現状でも最強のメディアであることに変わりはない。ソーシャルメディアとの相性も良く、テレビとの同時視聴が若者を中心に多く見られる。それを裏付けるように、テレビの視聴時間とソーシャルメディアの利用時間の関連性の調査では、「同時利用者」が2.6時間に対し、「非同時利用者」が1.9時間となっている。「同時利用者」の方が視聴時間も長いこと調査から明らかになっている(博報堂調べ)。
 本プロジェクトの中心メンバーである3人(小川、岩崎、中畑)は、2009年より4年間に渡って、テレビ視聴形態にかかわる共同研究を実施してきた。「インターネットによる定量調査(2009.9、13-49歳男女)」、「写真と記述による定性調査(2010.7、13-19歳男女、20-34歳女性)」、「視聴状況観察調査(2011.11、大学生男女とその親)」、「視線計測実験(2012.5、高校生男女、大学生男女)」の4つの調査である(『日経広告研究所報 2013年268号、289号掲載』)。 そこから得られた知見は、以下の5つであった。
 
1.パソコンをしながら視るなど、音をきっかけとして画面に視線を向ける「確認視聴」という形態の発見。①「チラ見視聴」、②「首振り視」、③「ひねり視聴」に3分類した。
2.「目はパソコン、耳はテレビの音」という視聴形態においては、画面に視聴者を向かわせるには音(種類や質)が重要であること。
3.とくに若者層においては、テレビ画面注視のきっかけは、笑い声、歓声、騒がしい音などの音である。一方で、目をそらすきっかけは、携帯メールや電話の着信、パソコンや携帯電話の閲覧などであった。
4.視線計測による停留分析では、テレビ画面への停留割合が60~80%程度の高停留層と、10~20%程度の低停留層の2タイプに大別された。
5.視線計測実験によって、低停留層は「チラ見」の集積でテレビ視聴を行っている。しかし、テレビ視聴への熟練によって番組の中身はほぼ理解していることもわかった。
 
 ただし、調査後に課題も多く残されていた。調査サンプルが少ないこと、調査サンプルが学生に偏っていること、実験の場が実際にテレビを視る環境と異なっていたことなどである。また、視線計測実験は、バラエティ番組のみにとどまっており、集中視聴が多いとされるドラマでの検証も課題であった。調査・分析の結果を踏まえ、調査実験の精度をあげて、対象やジャンルを広げる必要がある。
 そのために、今後の映像コンテンツ(番組、テレビCM)のあり方にも言及したい。コピー制作の現場に身を置いているクリエイターたちと共同研究を推進する意味がここにある。とくに、音入れの実験では、プロジェクトに参加してくれたクリエイターのコピーを利用してテストをすることになる。