【日経MJヒット塾】「(続)食のイノベーション(上):和菓子には未来がある」(2014年1月31日)

 本日の「日経MJヒット塾」に、和菓子の未来について書きました。完全版は、1月初旬に本ブログに掲載したもので、MJの記事はそれを圧縮して掲載したものです。データなどの裏づけは、MJの編集部にとっていただきました。



「和菓子には未来がある」(法政大学 小川孔輔)

「和食」が昨年12月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されることが決まった。和食の次は、和菓子が世界を席巻する――。高齢化が進むなか、そんな未来が見えてくる。

日本人の伝統的な食文化が世界中に広がったのには3つの理由がある。日本食がヘルシーで、おいしくて、美しいことだ。素材のおいしさや鮮度を重視。味付けは最小限度に抑える。すしや天ぷら、すき焼きなどは造形的に美しい。外国人は和食の彩りに感嘆する。日本料理は「芸術作品」である。
それが和菓子にも当てはまる。第1に洋菓子に比べて健康的だ。「タニタの摂取カロリー早見表」によると、洋菓子(1人分)は平均300㌔㌍超に対し、和菓子(同)200㌔㌍弱だ。また、「最中」などには脂肪分がほとんど含まれていない。
30年前の米国は、自宅でのパーティーで誰もようかんやどら焼きに手を伸ばさなかった。もちもちした感じに抵抗感があったのだろう。ところが、友人が10年前サンフランシスコで始めた「和菓子の教室」は大盛況だ。

外国人が漫画やアニメと一緒に和菓子やスナック菓子に触れる機会も増えた。米オレゴン州の大学構内の売店では「きのこの山」が買える。ネットで検索すると、「いちごポッキー」や「たけのこの里」を食した時の感動や驚きの言葉に出会う。
上海のコンビニではカルビーの「ポテトチップス」などが棚に並ぶ。バンコクの百貨店にはドラえもんのどら焼きがある。昔と逆で、和菓子のもちもち感やスナック菓子の「キュート」な形が女性たちに大受けだ。
日本のお菓子は素材の良さを生かしながらおいしさも追求する。江戸時代から綿々と続く食材加工技術や和菓子づくりの伝統に立脚。みそ・しょうゆ・清酒の醸造製造や漆器、陶磁器を製造する技術が応用されている。
和食や和菓子の造形美を生み出している芸術的な感覚で世界をとりこにする。ジブリ作品が世界中で支持されヒットするのと同等な現象である。

既に海外で成功している和菓子メーカーもある。老舗の虎屋(東京・港)はパリに店を構え、米イリノイ州でも代理店を通じて販売する。成田や羽田の国際線ターミナルビルでも店舗を見かける。 
どら焼きで有名な丸京製菓(鳥取県米子市)は氷温技術を利用して添加物なしでも消費期限最長180日のどら焼きを製造。米国など世界15カ国以上で売り、国内向けを含め年間1億2000万個の生産能力を持つ。売上高約30億円のうち現在10%の海外比率を15%に引き上げたい考えだ。

和菓子に未来があることを示すデータがある。嗜好の年齢効果に関する調査である(高橋史人・山口和子「食品の嗜好に関する研究(3)」)。洋風化が進んだ日本人だが、食の嗜好は年齢とともに洋食から和食に戻る。その転換点は40歳だった。
総務省の家計調査の結果から算出した和菓子の1世帯当りの消費金額(2人以上の世帯)は過去10年落ちていない。2012年は前年をわずかだが上回り、比較的堅調。コンビニのチルド和菓子の販売数量は伸びている。高齢化社会の到来は国内消費だけでなく、世界的にも和食と和菓子の普及を後押しするだろう。(了)

キーワード:
【チルド和菓子】コンビニ大手が冷蔵販売する和菓子。日持ちをよくする砂糖の使用を抑え、素材の味を生かせる。富士経済(東京・中央)によると、2013年の販売額は前年比21・7%増の112億円の見込み。30代以上の女性の購入が多いという。