2013年欧州ツアー#6(フレンチスタイルで、Kiss and Good-by)

 ツアーの本体から離れて、一日早く日本に帰る。25日に、科研費のアジア研究会があるからだ。ニースの海岸を9K走って、シャワーを浴びてから空港に早めに着いている。空が晴れあがって、昨夜のはげしい雨は嘘のようだ。



 青い海岸線とアルプスの雪の写真を撮り損ねてしまった。いつでも撮れると安心しきっていた。シャッターチャンスを何度も逃してしまっているうちに、まさか!の雨になった。かなり残念な気持ちでいる。

 わたしを空港まで連れて来てくれたフランス人女性のタクシードライバーによると、雨が降ったのは、わたしたちがニースに滞在していた二日間だけ。先週も今週末も、かんかん照りらしい。

 ニースの空港は、30年前にできた施設のようだが、まったく古さを感じさせない。こじんまりしているが、心地のよいデザインだ。フランスはデザイン大国である。機能性を多少は犠牲にしてでも、形状や色彩の美しさにこだわる。デザインを大切にする。根底にあるのは、人の作品や持ち物との違いを強調しようとする思想である。

 その辺は、北イタリアに住む人達にも共通した姿勢である。昨日、訪問したラナンキュラスの育種会社でも、通常の品種と異なる形や色を追求していた。イタリア人やフランス人は、ユニークであることに価値を見出だすから、効率性は究極の目標にはならない。

 考えてみるとよい。ファストファッションの世界では、スペインからZARAが、スウェーデンからはH&Mが、オランダからはC&Aが生まれた。アメリカは、フォーエバー21、日本からはユニクロやしまむらのようなチェーン小売業が出ている。
 イタリアには、BENETTONがあるが、これは量産型の小売業ではない。純然たるSPA(製造小売業)ではなく、衣料産業の地域的な集積を基盤にしたネットワーク型の小売業である。フランス(LOUIS VUITTON、GUCCI)やイタリア(ARMANI)のブランド品は、量や規模を追わない。ラグジュアリーに徹しているのは、花の世界でも、育種会社の姿勢に現れている。イマジネーションや専門技術にこだわる傾向があるのも、そうした姿勢と関係しているのだろう。

 例えば、地中海沿岸で花を量産しようとしても、そもそも平坦な土地がない。たとえ気候(生産条件)がいまいちでも、オランダやドイツは、人工的だが、平坦な場所があり、規模と効率を追求できる。南仏と北イタリアには、その条件がない。海岸線の丘陵や崖際で、花を生産しているからだろう。だからこそ、個性的であること、並外れた創造性に固執するのだ。規模と量産は、外の世界に任せるのだと腹をくくっている。

 さて、シャルルドゴール空港行きのAF7705の搭乗時刻が近づいている。印象的なサインをニース空港で見かけた。出発ゲートの入口に、Kiss and Good-byeのサイン。いかにも、フランス的だ。さようなら、ではなく。キスをしてお別れなのだ。