【2012年度CSフォーラム(1)】 二年連続、旅行業界・顧客満足度#1「一休.com」の強みは、良質な顧客資産と宿泊施設のスクリーニング機能(12月4日)

 「一休.com」が、2011年から二年連続で、旅行業界のJCSIナンバーワン企業になった。講演者の汲田貴司CMO(Chief Marketing Officer)によれば、同社の長期経営目標には、JCSIが組み込まれているとのこと。「JCSIのモデルが使いやすい」と言っていただいた。調査システムの設計者としてとても光栄に感じた。



 「一休.com」は、2000年5月の創業である。2007年に株式を上場している。当初は、ネットオークション事業からのスタートだったらしいが、ネット事業は必ずしも順調に展開されてきたわけではないらしい。
 ネットオークションに参入した創業者(森正文社長)が、高級ホテルの空き部屋をネットで競売にかけたところ、そのサービスが人気だった。偶然の出来事が、現在のビジネスの原点である。いつでも慎重に計画した事業プランが、計ったように実現されるわけではない。同社の事業展開は、その典型的な事例のひとつである。
 もちろん、プレミアム宿泊施設のディスカウントサービスが事業として成り立つことに気づいて、当初はニッチと思われたニーズに将来性を感じて(あるいは、生きんがために)、サービスを一点に絞り切れたことが、今日の成功の最大の要因ではある。ただし、それだけでは、継続的な成長は達成できない。
 大手広告代理店に籍を置いていた汲田CMOが、創業経営者に請われて同社に移籍したのち、「顧客戦略の転換」(集客よりCS重視の考え方)を実現できたことが、最近の業績反転の基本要因のようだ。

 同社のコア事業は、「ネット旅行代理店」である。レストランやSPA・エステなどのサービスなどもあるが、それらは付加的なサービスである。
 事業コンセプトは、「ラグジュアリーな滞留空間を効率的に埋める」である。顧客価値としては、「贅沢な時空間を、値ごろ感のある価格で提供すること」であろう(同社のコピーとしては、「心に贅沢を」となっている)。
 取り扱いサービス施設が、全国1400箇所(ホテル、旅館、レストランなど)。会員数は286万人である。わたし自身も一休の会員なのだが、それほど頻繁に同社のサービスを利用しているわけではない(回数を数えてみたら、直近2年間で3回の利用)。
 コアユーザー(年間2回以上利用)は、どのくらいいるのだろうか?汲田さんに聞きそびれてしまったが、おそらくアクティブな利用者は30万人程度ではないだろうか?わたしのステイタス(年2回利用)は、ぎりぎりのところだろう。

 とはいえ、平均サービス利用額は、一室2万円前後である(以下は、個人的な推計値)。年間に直せば、アクティブ利用者(30万人)一人当たりの平均年間支出額は、6~10万円(平均3~5回の利用)程度だろう。したがって、コアユーザーの売上は、240億円(30万人×8万円)になる。
 「20%:80%の法則」にしたがえば、その他ユーザー(ノンアクティブ利用者)からの宿泊売上は、約60億円。その他サービスの取り扱い(レストラン、スパ、物販など)が、50億円程度であろう。
 2012年度3月期の決算では、営業収益が36億円(実績値)となっている。手数料収入(約10%)で成り立っているビジネスである。同年の販売金額(小売りベース)は、約350億円だったはずである(実績もこれに近い数値らしい)。
 ちなみに、同社のネットには、「業績予想の修正に関するお知らせ」(10月29日)という記事が掲載されている。この告知記事によると、「2013年度3月期(見込み)は、販売宿泊室数が約160万室、販売取扱高が365億円、手数料収入は37.6億円」となっている。
 コアユーザー(30万人)が、客単価2万円で年4回利用すれば、120万室(240億円)の利用になる。残りが40万室だから、推計はそれほど外れていないだろう。

 当然のことだが、一休の将来ビジネスを考えると、既存ロイヤル顧客の客単価を上げていくことはむずかしい。やるべきことは、利用頻度(4+1回)と関連販売(レストラン利用や物販・ギフト需要+20%)を増やすことである。
 もちろん、一定数の新規顧客の獲得努力が必要である。中心は、30代~40代の「女性顧客」だろう。「おひとり様女性客」(既婚・未婚を同時に含む)の比率は、現状では約10%。この比率はさらに上昇していくだろう。

 分析からの結論である。同社のこうした顧客構成を考えると、「王道の戦略」が見えてくる。既存顧客のCS(顧客満足度)向上と良質な新規顧客(女性層)の獲得である。さらには、良質なサービスを関連販売することである。
 そのためには、宿泊施設(レストラン)の数を増やすのではなく、一定の品質基準を満たす施設にサービス提供を限定することである(厳しいスクリーニング機能)。そのほうが、利用者の満足水準を向上できるだろう。
 長期的な戦略指標として、同社がJCSIの6指標を採用していることがよく理解できる。同社の経営指針の中心にCSを位置づけることが、経営論理的に正しいのである。良質な顧客のプールが、「一休.com」にとって最大の経営資産なのだから、顧客(の満たされた心)にフォーカスすべきである。