中棚荘滞在日記(7): 信州小諸に、秋の風。

 中棚荘は、わたしが来た頃に比べると、日が暮れるのだが早くなった気がする。あきあかね(赤とんぼ)が、たんぼの周りを飛びはじめた。信州小諸は、秋の風が吹いている。



 今日までの滞在は、「しろがね」である。明日からは、「藤村」に移る。大正館の二階で、同じ角の部屋だが、藤村のほうが二間つづきで広い。
 実は、7月に下見に来たときに、宿の地図を見せてもらったのだが、北と南の方角を間違えた。見せてもらった部屋の藤村を指定したつもりだったが、その場では、「しろがね!」と答えてしまったらしい。一週間前に宿に着いてそのことが判明した。
 あまり細かなことにはこだわらない性格である。というわけで、7日間は、しろがねに泊まることになった。同じ部屋に二週間いるよりは、気分転換には、ちょうどよいかもしれない。

 さて、話は変わる。物事には、曲面が急に変わることがある。個人的な表現では、ステージが変わる場面のことを言う。

 これまでも、何度も体験してきたことだが。「量が質に転換する」瞬間だ。苦しさをじっと耐えて、その時が来るのを待つ。たいていの人は、この臨界点を越えることができないらしい。
 わたしが知るかぎり、人間の大きさや教養の深さ、興味の幅の広さは、クリテァカルポイントを越えた経験を何度体験したかによる。一度ではなく、10回も20回も。日常的に、この経験を繰り返しているかどうか。
 おそらく一流のスポーツプレイヤーや作家は、日々の仕事の中に、場面越えがセットされている。

 ささいなことだが、わたしにも、今日は場面転換が起こった。
 今日は、宿の周りを、南公園をまわって、懐古園まで約7キロ、小諸のまちを走った。とはいっても、ほとんどが田舎道である。たんぼや藪もある。
 連日のアップダウンがきついコース。しかし、これだけ毎日、急な斜面を上り下りしていると、体がスロープになじんでくる。1キロを走るのに、100メートルは上がっていく。スキーならば、急斜面を頭から突っ込んでくる感覚だ。
 だから、今日は走り終わって、抜けた感じがした。練習を重ねると、急な坂道でも、足が止まることがなくなる。勉強でも、物書きでもおんなじだ。短い期間に、ある程度の量を積み重ねると、一段、ステージが上がる。ドラゴンボール、孫悟空の世界。

 そんなわけで、足首の痛さは、どこかに飛んでいった。連チャンで、18Kのあと、7Kの急坂を上り下りした効果だろう。苦しかった走りに、支障がなくなった。

 今日は、クリステンセンの本、後半を読了。先月、献本していただいた余田拓郎教授(慶應大学Bスクール)の近著『B2Bマーケティング』東洋経済、を読んだ。書評はのちほど。

 余田さんが、東大の工学部卒とは知らなかった。このごろ、経営者や文系教授に、理科系出身者が増えている。わたしのまわりだと、黒岩健一郎くん(武蔵大学教授、法政大学イノマネ講師)などは、建築学科だ。一級建築士の教授には、岡山大学に、岡本先生?がいたな。カリフォルニア大学で一緒だった。