異分野研究者と交流することの醍醐味

 文部科学省の科研費(2018年~2020年)による研究会が始まった。研究テーマは、「農と食のイノベーション研究」(正式名称は、もっと長くて「農業と食の持続可能なビジネスモデルとイノベーションの実証的研究」)である。第一回の研究会を、今週初め(5月28日)に法政大学の経営大学院で開催した。

 

 上田隆穂先生(学習院大学経済学部教授)は、ご都合が悪くて参加できなかった。その代わりに、元院生の中塚千恵さん(東京ガス)が参加してくださった。研究のとりまとめは、わたし(小川)とリサーチャーの青木恭子さん(大学院小川研究室)が担当する。

 この4人に加えて、共同研究の中心的なメンバーは、消費者のエコ行動研究の第一人者、西尾チヅル先生(筑波大学ビジネスサイエンス系教授)と、日本でただ一人のワサビ研究者の山根京子先生(岐阜大学 応用生物科学部准教授)である。

 マーケティング論と消費者行動論、それに農学(育種)の混成研究チームである。女性研究者が半分以上を占めていることは、4月4日のブログで書いている。それ以上におもしろいのは、研究分野が大きく異なっていることである。

 分野が異なる優れた研究者が出会うと、思わぬ化学反応が起こることがある。

 

 初日から早速、異分野の「文化交流」が始まった。つまり、思いもかけない発見をすることになった。わたしにとっては、それまで知りえななかった二つの真実(仮説:考え方)を、ふたりの研究者との雑談から知ることになった。

 

 <山根先生から教えてもらったこと>

 ワサビは、日本古来からある古い植物だと思っていた。確かに植物としてはそうなのだが、食材としてのワサビの日本国内での本格的な普及は、関ヶ原の合戦(1600年)の後のことだった。「ワサビが王様になった」のは、仏教の影響で日本人が肉を食べなかったことに由来している。

 日本人が魚食(代表が寿司ネタのマグロ)を主体とした食文化を発達させたことと、ワサビの普及は深く関係している。新鮮な生魚を酢飯で、それに殺菌効果があるワサビを加えて食する。秀吉の時代に始まった魚主食の食生活が、ワサビの普及に結びついたのである。

 それとは対照的なのが、韓国の肉食文化である。こちらも、400年の歴史しかないのだそうだ。韓国人は、日本人がワサビを摂るようになった時期と同じ頃から、肉食主体の食生活が始まっている。肉にあう唐辛子を多用する食事をするようになり、キムチとカルビの食文化が一般化したのである。目から鱗だった。

 

 *山根先生のお話は、山根京子「現代若者の辛味嗜好性 - ワサビが嫌いで何が悪い?」で知ることができます。

 Academist Journal https://academist-cf.com/journal/?p=7158
 

 <西尾先生から教えてもらったこと>

 約40年前、公害問題のきっかけで世界中で環境意識が高まり、LOHAS的で自然生態系に配慮するエコロジカルな生活がする消費者が増えた。そうした先進的な消費者は、「自らが強烈な環境意識をもち、エコな生活を実践するイノベーター」だった。しかし、エコロジカルな生活を実践している多くの消費者は、それほど強い意志をもった消費者たちばかりではない。行動的・意識的には、フォロワーで付和雷同型?

 西尾研究室の仮説は、そうした現象を「社会規範」と「間接的な互恵性」で説明している。研究は始まったばかりらしいのだが、

環境意識が世間に広まるのは、ふつうの人の社会規範が変わることがポイントになる。たしかにそうかもしれない。

 詳しいお話は、次回の研究会で披露してもらうことになっている。