TPP法案先送りの一石三鳥

 法案不成立で、漁夫の利を得るのは安倍首相だ。菅官房長官の深謀遠慮と思えるくらい、みごとな国会審議の先送り決定になった。TPP法案の強行採決回避は、自民党政権にとっては一石三鳥なのだ。表向きは、「夏の参議院選挙への悪影響を考慮して」となっているが、本当の理由は別にある。



 第一に外交上の理由だ。昨日のブログに書いたように、米国ではTPPが批准されないことが明らかになってきた。本当は、「TPP協調国際連合」から自民党(日本)も脱藩したい。しかし、対外的にいまさら「撤退!」とはいえない。その理由が、ようやく見つかったのだ。国民からの支持が得られない。野党も大反対している。だから、TPP法案は政権として無傷では議会を通せない。これで、米国や豪州に対しては言い訳が立つ。
 第二に、国内のTPP推進派の中心は、グローバライズしているメーカーや商社(大企業)、規制緩和を期待しているベンチャー企業群である。チャンス到来派は自民党の支持基盤であり、大切な資金源ではあるが、当面の選挙を考えると「票」には直接結びつかない。国会審議のごたごたは、このグループに対するけん制としての役割を果たしている。政治的な判断だから、それは仕方がないだろう、と。
 三番目に、自民党のパワーバランスに対するダメ押しの効果だ。自民党内のTPP推進派の中には、隠れTPP反対派がいる。現政権に対して、表立って対抗勢力を形成する危険性があった。こうした動きは、国会審議の先送りでけん制できた。審議の先送りは、献金問題なども絡んでいるので無様(ぶざま)に見えるが、実質は野党連合に対しても、みごとなフォークボールになっている。

 先送りすることで、良識派の経済学者たちが主張する「行き過ぎた自由貿易論がもたらす社会的な不平等」に対する民心の反発が回避できる。また、将来はさらにローカライズしていくだろうはずの「農と食の国内市場」を支える政策的な機会を失わないで済んだたことになる。
 日本国にとっても、TPP審議中断は、朗報である。個人的には、永遠の先送りを望んでいる。できれば、この先は、無駄な農業予算のばらまきが止むことを、ひとりの納税者として期待したい。

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「TPP法案成立先送りへ、参院選への影響回避」
 読売新聞
 2016年4月13日(水)3時0分配信
 
政府・与党は、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案について、今国会での成立を見送る方向で調整に入った。
激しく抵抗する野党を押し切って採決に踏み切れば、夏の参院選への悪影響が避けられないと判断した。見送った場合、秋の臨時国会での成立を目指す方針だ。
複数の政府・与党幹部が明らかにした。安倍首相はこうした意向をすでに党幹部に伝えた。法案の参院送付後、成立させられずに国会が閉会すれば廃案となるため、衆院で継続審議にする方向だ。
承認案と関連法案は5日に衆院で審議入りしたが、野党は政府の情報開示が不十分だとして反発。西川公也・衆院TPP特別委員長が出版予定の著書を巡っても審議が紛糾し、民進党は8日の特別委を途中退席して以降、審議を拒否している。8日に甘利明・前経済再生相を巡る現金授受問題で東京地検特捜部が関係先の捜索に入ったことも合わせ、野党はさらに政府への追及を強める構えだ。