流通専門誌『ダイヤモンド・チェーンストア』と『ダイヤモンド・ホームセンター』の半年分、合計14冊をまとめ読みした。両誌は、ダイヤモンド・リテイルメディアから、隔週と隔月に送っていただいている商業専門誌である。このところ、翻訳の作業とかつしか文学賞の応募作品を執筆するため、読書の時間をまとめて取れなかったからだ。
ビジネス書のまとめ読みには良いところがある。一気に読むことで、一冊ずつ読むより、小売業界のトレンドがわかることだ。
『ダイヤモンド・ホームセンター』は、「DIY・HC協会」の会報誌に原稿を寄稿するため、2号分(2022年6月号と8月号)をまとめて読んだ。一方で、『ダイヤモンド・チェーンストア』は、今回は、2022年4月15日号から11月1日号まで、実に11冊分の一気読みである。
何度も寄稿してきたので、定期的に両方の雑誌が送られてくる。かつて雑誌名が『チェーンスト・エイジ』だったころは、連載(小川町経営風土記:しまむらとヤオコー)を担当したこともあった。大学教員だった現役時代は、雑誌記事を授業中に参考資料としてしばしば取り上げてきた。
しかし、まとめて半年分を読むことはなかったので、新鮮な体験だった。
今回、まとめ読みした感想は、「小売業界がイノベーションという点で、いま壁にぶち当たっているのではないか?」という懸念だった。一言で言えば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)以外に、革新的な「実践の芽」を見つけることができなかったからである。
たとえば、『ダイヤモンド・ホームセンター』の2022年6月15日号は、「ニトリVSカインズ」を特集している。非常によくまとまった記事だった。しかし、同じ号で紹介されている「2021年の決算レポート」を見ると、コロナ後のHC経営はきびしい状況をうかがわせる(P.8-9)。海外HCで売り上げを伸ばしている園芸部門やアウトドア用品は、日本では需要が一巡した感がある。
たとえば、厳密にはHC業態ではないが、ワークマンの業績推移(アウトドア用品など)を見ていると、とくにそのように感じる。カインズを含めて、上位のHCも売上・利益ともにコロナ特需は終わった感がある。
一方、小売業全体をカバーしている『ダイヤモンド・チェーンストア』でも、7月1日号の決算ランキング特集でも、似たような感想をもってしまった。好調だったドラッグストアと食品スーパーの業績は、まだら模様である。ドラッグについては、食品スーパーやコンビニから奪ってきた客が、コロナ終息とともにふたたびスーパーに戻っているのではないかと思う。
原因は、2年半のコロナ禍で、ビジネス環境が大きく変わったのに、新しい革新の芽が生まれていないからではないかと思う。海外の状況とわが国の小売り環境には、単にタイムラグがあるだけなのか?いや、むしろ、根本的な点でわが国の場合は長期の停滞が始まっている可能性がある。
一般的に、どの業界の未来に対しても、わたしが悲観的な見解表明することは稀である。しかし、雑誌のまとめ読みから、今回だけは、ふと「小売イノベーションの限界点?」を感じ取ってしまった。