「物語コーポレーション(中)」では、ユニークなFCビジネスの仕組みと業態開発の考え方を紹介します。創業者の小林特別顧問は、事業をはじめた当初は、フランチャイズシステムには懐疑的でした。しかし、「焼肉一番カルビ」の出店で考え方を改めます。(*注『食品商業』2021年2月号の原稿とは少しだけ表記が異なっています。)
「物語コーポレーション(中):“清く正しいフランチャイザー”を目指して」
『食品商業』2021年2月号(連載25回:「農と食のイノベーション」)
文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
<フランチャイズ・システムは虚業か?>
小林佳雄取締役特別顧問とはじめてお会いした半年前(2020年3月3日)のことです。共通の知り合いで、大きな影響を受けた渥美俊一先生から学んだ「チェーンストア理論」のことが話題になりました。その昔、小林さんは「ペガサスクラブ」(日本リテイリングセンター主宰)のセミナーに参加したことがあったそうです。
「ぼくは元々、日本のフランチャイズには否定的な考えをもっていました。FCは虚業で、まっとうな商売なら、直営でやるべきだと」(小林さん)。
渥美先生は、直営店志向でした。「レギュラーチェーン推奨派」だった渥美先生が経営指導をしていたイオンやニトリ、カインズやサイゼリヤは、フランチャイズ・システムを採用することがありませんでした。スーパーやホームセンターなど業種的に大型店舗が大きかったこともありますが、これら日本を代表する流通企業群は直営店で成長してきました。
ここからは筆者の推測です。若いころに学生運動を経験した渥美先生は、米国の発明であるフランチャイズ経営は、加盟店を犠牲にして利益を上げる「搾取の構造」をもった制度だと思い込んでいた節があります。したがって、日本リテイリングセンターの「ビッグストア統計」(売上高50億円以上)からは、フランチャイズ主体のコンビニとファストフードチェンは外れていました。厳密な意味で、本部と加盟店の売上を峻別できないからです。
参考までに、「日本フランチャイズ協会」の定義を紹介しておきます。*1
フランチャイズ・システムとは、「フランチャイザーが、フランチャイジーと契約を結び、フランチャイジーに対して、自己の商標、サービス・マーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識および経営のノウ・ハウを用いて、同一のイメージのもとに事業を行う権利を与えるとともに経営に関する指導を行い、その見返りとしてフランチャイジーから契約金、ロイヤルティ等一定の対価を徴するフランチャイズの関係を組織的・体系的に用いて行う事業の方法である」と定義されています。
<“清く正しいフランチャイザー”になるため3つの条件>
小林さんも当初は「フランチャイズビジネス懐疑派」でした。FC本部は、加盟店から高額の指導料をもらえるほどきちんと指導ができていない。ところが、あることがきっかけで、フランチャイズ・システムを採用する方向に経営方針を転換します。
「物語コーポレーション」に社名を変更する二年前の1995年のことです。「焼肉一番カルビ」をチェーン展開することになります。一号店から3号店まで、とんとん拍子で店舗が増え、各店の売上も月商3000万円を上回るほど伸びていきます。そこに、取引先の食材卸会社から、フランチャイジーになりたいという申し入れが来たのです。
「FCアレルギー」だった小林さんは、次のように考えました。加盟店が納入業者なのだから、わが社の商売の実績はもとより、企業体質や食材の納入価格まですべて知っている。経営は完全にガラス張りで、本部と加盟店が対等な立場でビジネスができる。この場合に限れば、フランチャイズ・システムが成り立つと考えて、食品卸の子会社だった「(株)デイリーカフェ・&フーズ」に焼肉一番カルビのFC一号店を任せることになります。
ただし、FCビジネスを虚業にしないために、小林さんは3つの原則を掲げます。スローガンは、「どこよりも“清く正しい”フランチャイザーを目指して」。そのための3原則とは、①(本部も加盟店も)「儲かることが大前提」、②(加盟店に対する)「教育の徹底」、③(本部からの)「徹底した情報開示」でした。
<真摯で迅速な対応:4つ目の条件>
この3つに加えて、公明正大なフランチャイズの仕組みを実現するためには、もう一つの重要な条件があることを発見します。それは、④(本部からの)「クイック・リスポンス」でした。フランチャイズの仕組みを機能させるためにもっとも重要なことは、本部が加盟店からの苦情や問題提起に対して、真摯になおかつ迅速に対応することです。小林さんが、同社の『社内報』に書いた発言をそのまま引用します。
「弊社のように「Smile&Sexy」という経営理念で、自分の意見をバンバン言い合うことがかっこいい、という社風を持っていても、本部の商品開発やメニュー開発に対して、直営店からは、批判の意見や改善提案はほとんど出てこない。ところがフランチャイジーからは、即座にクレーム、改善提案、いろんな意見が上がってくる。これが、商売の本質なんだと気づいたのです。現場の意見がなくなれば、直営であろうが、商売の根幹が崩れてしまう。だから、これからはフランチャイジーさん中心の会社を作ろうと」*2
CS経営でよく言われるように、企業にとって「苦情は宝」なわけです。たとえ面倒くさくても、真摯にクレームに対応することは経営の改善につながります。対応してもらった顧客は満足してリピーターになってくれます。
FC経営でも事情は同じです。フランチャイジーの声に迅速に応えることは、本部に決定的に欠けている「ビジネス改善のためのインプット」を提供してくれます。小林さんは、自社の成長のために、加盟店からの苦情や提案をポジティブに活用するのが正しいFC経営なのだと気づいたわけです。
一般的に、日本のFCシステムにおいて、本部と加盟店の力関係は対等ではありません。代表的な事例が、コンビニエンスストの経営だと言われています。近年、経産省がコンビニの経営に対して報告書(提言と勧告)を発表しています。 それは、日本のFCの仕組みが、加盟店が置かれた現状にそぐわなくなっているからだと思われます。物語コーポレーション(外食)やカーブス(フィットネス)、ワークマン(作業着)などは、早くからその点に気づいて、正しいFC経営に舵を切ったわけです。
<業態の開発原則と開発手順>
もちろん、FCが正しく機能するためには、本部の業態開発と事業改善の仕組みが優れていなければなりません。加盟店からのインプットを有効に活かすことができないからです。この分野についても、物語コーポレーションは、ユニークな発想から事業開発の基準と手順をシステム化しています。
「開発4原則」とは、①文化(顧客価値)、②オリジナリティ(差別化ポイント)、③システム&システムオペレーション(顧客のわかりやすさと従業員にとっての効率)、④市場性・大衆性(事業性と市場価値)の4つです。新しい業態を開発するときは、この4つの要素に照らして、市場性と成長性を評価することになります。
上記の開発4原則は、外食産業ではふつうに実行されている基準です。しかし、筆者がその中でも興味深いと感じたのは、それに続く「業態開発手順」でした。①どこで、②何屋を、③どんな規模で、④どんな外装で、が具体的な手順になります。とりわけ、外装のように、毎週開催される「サイン・デザイン会議」で、看板の大きさや文字表現などを真剣に議論するところに、同社の業態開発の独自性を感じ取ることができます。
インタビューで一番驚いたのは、業態ブランド名を頻繁に変えていることです。また、特定の業態内でも、サブブランドを細分化していることです。例えば、焼肉業態は、「焼肉一番カルビ」ではじまりました。しかし、その後は、「焼肉きんぐ」「焼肉一番かるび」「熟成焼肉肉源」「牛タン大好き焼き肉はっぴぃ」など、サブブランドを業態で細かく分けています。
それが実行できるのは、開発組織と店舗運営の方法が独特で補完的にできているからだと言えます。組織運営と人材開発の仕組みがあって、はじめてユニークな業態開発が可能になります。(下)では、経営理念と組織運営について紹介します。なお、コロナ禍でも成長を続けている同社の成長の軌跡をご覧ください(図表参照)。
<< この付近に図表 グループ売上高・店舗数の推移(略)>>
<注>
*1) 公式ホームページ(http://fc-g.jfa-fc.or.jp/)による。
*2)「The Monogatari」『社内報』2002年7月号
*3)経済産業省『「新たなコンビニのあり方検討会」報告書~令和時代におけるコンビニの革新に向けて~』(2020年2月10日)