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【シリーズ:農と食のイノベーション(第7回)】 「金沢大地(下):千年産業を目指して」『食品商業』(2019年2月号)
 連載第7回「金沢大地(下)」では、農業を長く続く産業として位置づける井村さんの考え方と実践を紹介する。耕作放棄されてきた広大な農地には、食と農を結ぶことで多くの可能性が残されている。なお、2月号に掲載された原稿は、紙幅の都合で一部がカットされている。
*(上)から続く
  
4 就農時に描いた夢:未来の設計図
 地元の広告代理店を退社した井村(辰二郎)さんは、迷うことなく、慣行農法ではなく有機農業を選びます。千年先も持続可能な農業を目指したかったからです。
 「どうせなら世界に出ていきたい。それなら、有機JASの認証を取得してみたい」と、有機JAS認証会社(JONA:高橋勉代表)の門をたたきます。実家の農業を継承した翌年(1998年)のことでした。有機JASの認証取得が2001年、海外の展示会に自社製品を出品できたのが、その8年後の2009年でした。
 わたしの手元に、井村さんの「有言実行」を証明する資料があります。ご本人から頂いたもので、「1997年 就農時に思い描いた設計図」(図表3)という一枚のシートです。そこには、「金沢農業(畑、水田)で、米、大豆、大麦、小麦雑穀、野菜、ジャガイモ、玉ねぎ、果樹を有機農業で作る」と書いてあります。矢印の隣には、加工部門の「金沢大地」が配置されています。丸麦、醤油、味噌、麦茶などを作る会社と記されています。当初から加工部門が構想されていたわけです。
 循環型農業を構想した「未来設計図」を見ると、廃棄副産物が有機肥料生産につながっています。鶏やヤギ羊を飼って、そこから出る糞尿を「生ごみコンポスト」として農地に投入されることになっています。その先には、風力発電や太陽光発電、小水力発電が配置されています。驚くべきことには、エネルギー自給のための自家発電設備が、東日本大震災(2011年)の遥かむかしに構想されていたことです。実際に、能登半島の山是清地区では、太陽光発電で売電してかなりの収益を上げています。
 
<<この付近に、図表3を挿入>>
 
5 なぜ農業に加工部門を取り入れたのか?:「一人農商工連携」
 井村さんが父親から引き継いだ農地は、水田10ヘクタールと畑3ヘクタールでした。河北潟干拓地の耕作放棄地を、毎年10ヘクタールずつ畑地に復元していきます。しかし、有機農場で生産規模が拡大すると、取引先も規模が大きくなります。出荷する商品も有機農産物ですから、販売市場が限定されていました。
 販路を拡大するためには、自分が作った農産品が、誰がどのような目的で買っているのかを知る必要があります。市場を経由するのではなく、直接に消費者との絆を築きたい。そのためには、加工品を作って販売するのが近道になると結論づけます。
2002年、農産加工部門として「金沢大地」を設立します。「いまでは従業員20名になりましたが、はじめた当初の作業員はわたしひとり。つまり、一人農商工連携でした(笑)」(井村さん)。
 最初の加工作業は、自社農場でとれた有機大豆から豆腐を作ることでした。地元生協(コープ金沢)に納めるため、井村さんは毎朝2時に起床します。農作業を終えた翌朝、収穫した有機大豆を豆腐に加工します。自社加工のために、300万円を投じて豆乳プラントを導入しましが、品質がなかなか安定しません。
 そこで学んだことは、加工作業を外部委託することでした。3年前から、加工部門のほとんどをアウトソーシングしています。「金沢大地」で販売している自社ブランドの有機醤油(「滉、あきら」)なども、小豆島醸造に加工を委託しています。一般的に、農産物の6次化事業には、技術、資金、人手、販路が必要です。農産加工品は重量も重くかさばりますから、倉庫スペースも必要になります。
 井村さんの結論は、ビジネス展開としては、アウトソーシングを積極的に取り入れることでした。これは、大きな戦略転換でした。思い切ってそれができたのも、広告代理店時代に経験した営業・マーケティング活動と、政府機関や地元経済界とつながりで築いたネットワークがあったからです。
    
6 有機農場の農地拡大と生産性
 農業部門は、「金沢農業」(金沢市)と「アジア農業」(能登半島)の2地区の事業体から構成されています。正社員は約10人。研修生を5名ほど受け入れています。なお、農業部門の特徴は、離職率が低いことです。農場を訪問して感じたことは、従業員の皆さんが意欲的に作業をしていることでした。
 農場のあちこちに、海外産のトラクターや大型のコンバインが置いてあります。井村さんの有機農業生産は、土地利用型であると同時に設備投資型農業ともいえます。象徴的なのは、15年前(2003年)に行った設備投資(約1億円)の「たい肥レーン」です。全長120メートルで、自動でたい肥の切換えしができる設備でした。日本最大のたい肥自動化ラインです。
 興味深いのは、設備投資額が大きいのに、そこに投入される資材は安価だということです。たい肥レーンを例にあげると、投入される主原料は、知り合いの養鶏業者から供給してもらっている鶏糞などです。化学肥料は一切使っていません。肥料はたい肥と緑肥のみで、肥料には農薬やホルモン剤も使っていないのです。
 ただし、農産物の圃場での生産性は、それほど高くはありません。反当りの収穫量は小さいのです。慣行農家に比べると、米・麦・大豆は半分の反収です。ところが、考えてみればわかることですが、慣行農法では肥料や農薬を購入しています。これらは海外から輸入している高額な資材です。井村さんの有機農業は、資材の国内自給率が100%の低投入農業であることがわかります。生産性が多少劣っても利益が生みだせる構造になっているのです。
 そのことと裏腹な関係で、人件費比率と設備償却費率が大きいのが大規模有機農業の特徴になります。「それでも、人と設備に対する経費支払いは日本国に還流します。そして、支払ったお金は、いずれ消費に回る循環型経済の一翼を担っているわけです」(井村さん)。
 井村さんの次なる目標は、農場の生産性を上げていくことです。農地の生産性が上がれば、収益性はもっと高くなります。「反収の伸びしろが大きいので、生産性向上は大いに取り組む価値があると思っています」(井村さん)。
   
7 「金沢ワイナリー」とレストラン事業
 数年前から、井村さんは、ブドウの栽培とワイナリーの開設を構想していました。これは、ご自身の「夢の棚卸し」から始まった事業です。能登半島(門前町と珠洲市)で耕作放棄地を復元した井村さんは、その地で、大豆や麦、コメを作っていました。そして、地元産の原料を使って日本酒(滉)を作った実績がありました。
 「次のステージは、農業で地域を活性化させることです。そのためには、農業と観光を連携させる必要があります」(井村さん)。
 能登の土地は、珪藻土壌で痩せているのだそうです。やせた土地はブドウの栽培に向いています。お手本としては、数年前に第3セクターで開発した「能登ワイナリー」の事例がありました。カリフォルニア州のナパバレーやフランスのボルドー地方もそうですが、ふつうはブドウ畑の真ん中に醸造所を作ります。しかし、過疎地に小さなワイナリーを作って集客する事業モデルでは、利益を出すことが難しいという結論に至りました。
 代替的な方法が、「アーバンワイナリー」を開設するというアイデアでした。都市部のほうが集客は容易だと判断したわけです。大阪の藤丸醸造所や江東区の清澄白河ワイナリーという実例がありました。レストラン併設の醸造所です。
 その結果、金沢の町家を改装して、一階が醸造所、二階がフレンチレストランという「クラフトワイナリー+レストラン」の構想に至りました。能登ワイナリーの3分の一の規模でスタートしたのが、「金沢ワイナリー」です。醸造免許が下りたのが、今年の10月22日。技術を習得するために、富山県氷見の「Say's Farm」で二年間、醸造実習を受けました。
   
8 社名を変える:CI(ブランディング)
 井村さんは、いずれ会社名を変えたいと思っています。今回のワイン醸造所に併設したレストランは、A la ferme de Shinjiro(フランス語で、「辰二郎農場」)です。長く続いている会社(老舗)には、店舗名や社名に「家」(創業者)の名前が入っていることが多いのです。
 現在の社名は、農産加工品メーカーの「金沢大地」です。「井村農園」や「辰次郎ファーム」のほうが、響きが素敵ではないかと考えているそうです。小売りサービス業の場合は、家や名前のほうが親しみやすく、消費者とのつながりが持てそうだ。そう考えて、レストランの名前には、「辰二郎」を加えたのでした。
 洒落っ気たっぷりな井村さんは、農場訪問の最後に、「“しんじろう”の時代が到来している」と話してくれました。ご本人の名前、辰二郎です。金沢大地を訪問してくれたこともある元農林水産大臣は、(小泉)進次郎。そして、ワインつながりでいくと、サントリーの創業者、(鳥井)信治郎でした。
| Kosuke Ogawa | 07:06 | - | - | pookmark |

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