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【松尾雅彦×小川孔輔対談】「これからの農業・農村の道しるべ(後編):人材と情報を地域にどう集結させるか」『農業経営者』(2018年5月号)

NEW!『農業経営者』の2018年4・5月号は、カルビー松尾雅彦氏の追悼号だった。2016年の対談で後半が掲載されないままになっていた。今回の5月号で特別インタビュー企画「(後編)人材と情報を地域にどう集結させるか」というタイトルで掲載された。半年遅れてのブログアップだが、貴重な対談記事になっている。

 

【松尾雅彦×小川孔輔対談】
「これからの農業・農村の道しるべ(後編):人材と情報を地域にどう集結させるか」『農業経営者』(2018年5月号)
   
▼なぜ日本の農学部は
 現場の役に立たないのか
   
――前編では、地域の自給圏のなかに非市場経済をどう築くかという手法について伺いました。後編ではそれを担う人材や情報をどう地域のなかで組織していくのか、おもにソフト面についてお話しいただきたいと思います。  
小川孔輔(法政大学大学院教授) 地方の大学には農学部があって研究者がいますが、『スマート・テロワール』の本には、大学や学者が農業現場の役に立っていないとありました。
松尾雅彦(カルビー蠢蠱面髻法\鏝紊貿棲愽瑤寮萓己が現場を指導できないように政府がしたんですよ。
小川 その辺りの事情をよく知らないので、詳しく教えてください。  
   
――米国では大学が現場の経営も含めて指導する体制をとっていますが、日本が戦後に導入したとき、大学ではなく、農林水産省の下部組織の都道府県農林部のなかに普及所として入れてしまったんです。
松尾 いろいろと試行錯誤して合ってるとか間違っているとか言い合って、学説を変えていくのが大学でしょう。その仕事を行政がやると、制度をつくって補助金を付けるから、間違えられなくなるんですよ。  
  
――日本の大学の農学部は指導者あるいは官僚育成の場になっています。農学部は全国に数多くあるのに、現場とつながらないで政治とつながってしまうわけです。日本の農業はそれがくり返されて、政治が過剰に関与して、行政が隷属していると指摘されているわけです。
松尾 その補助金で政治家は票を買うわけで、減反政策もあれは間違いだと言われても変えられませんでした。士農工商がいまだに残っているんですよ。
小川 松尾さんは米国の大学を回られていますが、向こうの大学は現場にどう関わっているのですか?
松尾 米国の州立大学はその州の主要な農産物の研究所を持っていて、現場の生産の指導をする責任を負っています。米国では1970年頃に市場が加工食品に大きく変わりました。ハンドリングも含めて、いままでのやり方が通用しなくなりました。たとえばアイダホ州では生産者が1セントずつお金を出し合ってリサーチセンターをつくりました。また、ジャガイモの研究所は、産地でもあるワシントン州立大学が最初で、生産者はそこに問い合わせしながら仕事することができます。カルビーの工場はオレゴンにありますが、こっそりワシントン州に行って指導を受けてくるわけです。
小川 オランダもそうですね。ワーヘニンゲン大学の農学部はフードバレーという研究拠点を持っていて、農業だけでなくマーケティングまでやるんですよね。
松尾 ノースダコタ州とミネソタ州の大学では、ジャガイモの育種から貯蔵まで自分たちでやっていて、試験をやれる工場もあります。樹民や農家の相談にも答えられて、食品加工業者からの相談にも乗れる。まさにエクステンションセンターの役割を果たしています。
   
――カルフォルニア州立大学には3つの分校に農学部がありますが、野菜の需要が伸びていくなかで、農学部で全自動のハーベスターの開発を始めたそうです。ところが移民の労働力が確保できるので、全自動より横移動式のハーベスターのほうが経済的だという声が現場の経営者たちから挙がると、大学の研究者たちは開発の方向性をすぐに変えました。つまり、米国の大学は現場の経営や現実のマーケットと非常に結びついているわけです。
松尾 コーネル大学の場合は、ニューヨーク市民のチャレンジャーのための大学ですから、大企業には一切教えません。そこはハッキリしています。地域社会を壊すのは大企業ですから。
小川 なるほど、大企業は自分でやれと。自力でやれますからね。
松尾 農家は地域に密着していますから大企業にはなりません。最近流行りのITを使って生産管理からマーケット管理までできるシステムがオフィスに用意されていて、独り立ちできるまでサポートしていますよ。もちろん農場もありますから、栽培も指導できますし。
  
――米国のエクステンションセンターでは普及員が同時に研究者でもあって、医学で言えばまさに臨床の場になります。大学の農学部が現場と関係していないというのは、先進国のなかでは特殊なケースですね。
小川 若い研究者には、地域、地方の農学部なのだから公共心を持ってもらって、松尾さんが希望するような自分の業績だけじゃない人が出てこないと困りますね。
松尾 いい人は地方にもいっぱいいるわけですが、彼らが活躍できる場を作らなければいけません。講演に行けば、必ず我々はどうすればそれを実証できるのかという質問を受けます。最初のうちは私企業が中核にはなれないので、公の試験場でやってみて、広がるものができたらまた来ますと答えています。研究者と農家しかなくて、その間の臨床がないのですから、そのエクステンション活動にも彼らが働く場ができます。
  
――社会のあらゆるところで、研究と臨床が一体になっていないわけですね。
小川 我われの経営学でもそうです。私は臨床に相当することばかりやっていますが、現実に突っ込む人があまりいなくて、農業や食べ物には興味がありません。ITとか消費者行動とか論文を書きやすいテーマで研究をしています。大学が役に立たないという意味がわかりました。
▼山形大学で実証する
 日本農業の「臨床」の場
小川 山形大学でいろいろ挑戦されているそうですが、どんなことをされているんですか?
松尾 まず、山形大学の農学部に寄付講座を開設しました。それは庄内地方にスマート・テロワールのモデルをつくるためです。
 
――合わせて1億7500万円の寄附だそうです。
小川 狙いを教えてください。
松尾 5年後には、山形大学のエクステンションセンターになるというビジョンを持ちなさいと話しています。山形とか東北は水田ばかりなので、とくにいまはジャガイモや大豆などの畑作と畜産を連携させて、加工業と結ぶ取り組みをしています。庄内地方で興して、そこから広げていくという計画です。大学のなかだけでやっていてはダメですからね。将来、民間で同じようなことを始めたときに、困ったことがあっても駆け込める場所をつくっています。
小川 農学部の先生が中心になって進めているのですか。
松尾 鶴岡市にある農学部付属やまがたフィールド科学センターを拠点に、前回お話ししたような耕畜連携や、大豆の生産者と豆腐などの加工メーカーとの契約栽培、畜産家と畜肉加工場との連携、流通システムの構築、それから学校給食との連携などを進めています。
小川 何年計画ですか?
松尾 私がお金を出すのは5年間です。成長しなければ5年でやめますよ。完成するには最低10年はかかると思います。日本では育種でもちょろちょろと植えたくらいで試験栽培と言っていますが、欧米では広い農場でもって、農家が実際にやっている技術サイクルで実証試験をして成功したか確認するわけです。いまは試験場でやっていますが、民間が中心となって5haくらいで事業者の入ったチームをつくってほしいですね。
  
――日本では農水省と県、大学が独立していますが、現場ではもっと自由な発想で取り組んだらいいのではないでしょうか。
松尾 まず、人材と情報のプラットホームをつくるところから始めましたが、実績をつくりさえすればそこにみんな寄ってきますよ。政治や理屈だけで何が必要なのか知らない国がやると、中身のないエクステンションセンターというハコモノをつくって借金を増やすだけですから、国はやらないほうがいいでしょう。
  
 
▼30年後の将来図を描けば
 若者は地域に集まる
小川 もうひとつ私が気になっているのは、人の問題です。働く場所があって、楽しく暮らせて、やりがいがあれば若者も田舎に帰ると思いますが、地元の秋田を見ていると年寄りしかいません。
松尾 政府が予算を付けていて、山形大学でも17年から農村に移住する人のための教育を始めています。私も講座を受け持っていますが、いまの農業で教えて欲しくない――。
小川 どうしてですか?
松尾 コメと果物と野菜の農業を学んでも、前回話したような同士討ちにしかなりません。後出しした者が成功するでしょう。政府は農村に移住する人の受け入れ体制を整えろと号令を出していますが、流行のICTを使った農業だとかそういう話ばかりしてね。そこにお金が出ているのが現実です。
小川 それは基本ではありませんね。あくまでも手段ですから。
松尾 あくまでも農村が新しい枠組みに入っていくことに耐えられる人材を育てないといけません。そのために、山形大学では教育の仮説実証をやっています。最低3年かかると思いますが……。
小川 教育への投資が必要ですね。
松尾 若い人は希望が高いです。ですから、ビジョンを掲げて、ぜひ来てほしいというメッセージを打つんですよ。庄内は5年後くらいにはスマート・テロワールで「ホラ」をかますことできるわけです。
小川 ホラね!
  
――従来の農村に調和することも必要ですが、飛びぬけられるような人が出てきて、生産だけでなく、加工業者や小売業者、消費者とうまく連携することが肝心なんですよね。農業には若者が結構集まるようになっていますが、それと同じように地方の小売業や加工業が都会の若者が魅力を感じるようなアピールをするということも可能だと思います。
小川 小売業での成功例は少ないですね。私も大学に入学するために東京に移住してきましたが、都会には生活が便利で情報が豊富だという快適さがありますからね。
松尾 いま何ができるかではなく、30年先を見て、どこまでの可能性があるかを示さないとダメですよ。食文化だとか、住宅だとか性生活だとか、それらをおしゃれにする将来図を描く必要がありますよ。
小川 いまの人たちは田舎に出かけても都会にいるのと同じパターンで楽しもうとするから、そこまで描いてあげるんですね。
松尾 30年先の将来図を描くことが人の考えを変える上では非常に重要ですよ。なぜこんなに変わるのかと聞かれるぐらいのことを描いてほしいですね。庄内の場合は、いま水田ばかりで畜産がないわけだから、水田でも少し高いところでは畑作をやって、棚田は一部残して、傾斜地は羊とか牛の放牧地になるとかね。30年というスパンで考えると、限界集落の住民は次世代の人たちになるわけです。もっとコンパクトに街のほうに集まってもよいと思います。農村の将来を計画しようというのはそういうことです。
小川 それなら若者が戻ってくるかもしれないですね。女性も。
松尾 イタリアの事例を調べてみると、農村の計画図ができていて、評価されたところから補助金が付くんですね。日本はつい最近まで、いろんな規制があって地方自治体に自分たちの将来像を描かせなかった。地域でつくれるようになったのは、10年くらい前からですよ。だから、それに呼応して市街地の美しさとか言い出したわけです。
  
――松尾さんはつねづね、いま日本の農村の疲弊している姿は30年前のEU諸国の姿だとおっしゃっています。イタリアやフランス、ドイツも同じ経過をたどってきたということです。でも30年たって復権しています。そこに参考にするべきサンプルがあるのではないかと。農業改革も日本より30年早くやっていますから。
松尾 工業社会は岩倉具視の使節団が学んできて、戦争のやり方も学んできて……。ところが、農業社会は学んでいないんですよ。
  
 
▼公共を大切にする意識
小川 少し話は脱線しますが、北海道の美瑛町でやられているNPO法人「日本で最も美しい村」連合にはいつから携わっているのですか。
松尾 カルビーの工場がその頃、美瑛にあった関係で相談を受けて、02年にフランスの美しい農村を視察に行って、05年にスタートしました。
松尾 美しい村をやると、だいたい選挙で落ちる――。
小川 どうしてですか? 有名になるでしょう。
松尾 経済の成長政策に比べたら、美しい村というのは縮小政策から銭を稼げないということですよ。たとえば、イギリスやフランス、ドイツ、イタリアあたりで人口5000人以下の村に行くと、広告はひとつもありません。広告が一つあると、二つに増えて醜い村になる。人が来なくなるわけです。パリのシャンゼリゼも規制が厳しいでしょう。ヨーロッパではそういった公の場所の価値が重要なんです。民族間の侵略だとかあったなかでも地域社会を守るという意志形成はしっかりしています。日本では家をつくると塀で囲うでしょう?
小川 私の家にはその塀がありませんよ(笑)。学生時代に米国では一軒家に住んでいて、塀がなくて家の前の芝生からそのまま家に入ることのが快適だったので。周りから見えるので逆に泥棒に入られたことがありません。広告看板の話も塀の話も、土地や風景は誰のものかという考え方に帰着しますね。
  
――その話題で、近所の酪農家の仲間たちと、自分たちの牧場を開放して観光客が自由に歩けるようなフットパスを始めた根室の酪農家を思い出しました。公にすることで得られるものの意義をわかっているんです。
小川 日本人はもっと公共を大切にしなきゃいけません。とくに土地はみんなのもだと思っていれば、風景もみんなのものなので看板を掲げなくなりますよ。
  
▼スマート・テロワールの
責任は誰が負うのか
小川 本題に戻りましょう。最後の質問は、スマート・テロワールの責任者は誰なのかです。カルビーは、強力なマーケティング力をもった垂直統合のモデルですよね。それを自給圏のなかで展開するには、スマートな経営機能を持った組織が必要になると思います。
松尾 ある程度、共同組合あるいは管理組合みたいなものは必要になると思います。情報はジャストインタイムで動かすほうがいいわけですが、決して製品にして在庫することは一切やりません。地域内に消費者がいるわけですから。
小川 物流や運営のための情報システムのセンターは、自給圏のなかで共有するわけですね。
松尾 物流は手間の交換が基本ですが、少ない量の集荷や出荷の物流と、その運営のための情報システムが必要です。農協には設備も資本もあって、人もいます。それがうまく機能していないわけですから、農協としても新事業として請け負うのがいいと思います。一方、商流のモデル1つだけだと社会主義になりますから、それに従わない人はその地域に住みにくくなってしまいます。2つ、3つあったほうがいいですね。
小川 ヨーロッパにはモデルがあるんですか?
松尾 協同組合という人数も少なくシンプルな組織がありますけど、私の提唱するスマート・テロワールを動かす組織のモデルはありません。欧州は市場経済になる前に、すでに手づくりのハムやソーセージやワインやビールがありました。三圃式農業に小さな商圏の加工が加わっているだけですから、簡単な組織でよかったわけです。ところが、日本では市場経済が発達したなかに非市場経済の自給圏をつくろうという話ですから複雑です。誰かがリスクを負わないと維持できません。
小川 カルビーの場合はカルビーがリスクを負ったわけですよね。スマート・テロワールの場合は誰になりますか。
松尾 選挙に出た人はダメですね。広域連合ですから、そのなかで人柄のいい人が社長になるといいと思います。カルビーでも新しい事業をやるときには基本的にコストは母体で負担しているので、コストゼロなんですね。そういう思いでやれた人が、その地域にいれば、その人を中心に動けるようになるといいですね。採算に合う度量になれば運営会社にすればいいですし。庄内では、庄内スマート・テロワール協会という組織をつくって地域の人たちと話し合っています。それがどう発展していくかはこれからの話です。
   
――答えを出すのは松尾さんじゃなくて、そこの住民たちであり、経営者たちということですね。
松尾 西田幾多郎の言った真善美は、自然の理に基づく「真」と、「善」は人々の善意、非市場経済の互収のことですね、美は美食とか美景です。この3つをやる善意の人が集まって、こういうことを勧めれば、農家から高く買ってくれて、消費者に一番安く売るのが市場を支配するはずなんですね。
小川 価値があるものを近いから新鮮なまま安く提供できると。話を聞いているうちに、実現できるように思えてきました。
 
――お二方とも今日はありがとうございました。
| Kosuke Ogawa | 17:44 | - | - | pookmark |

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